仕事で車を走らせてると、ふとラジオから葉加瀬太郎の『Another Sky』が流れてきておもわず僕の心を強く打った。正月休みも近いことからこの曲を聴くとどうしてもANAの機内の風景を思いださずにはいられない。バッグを収納棚へしまいこみ、シートに腰をおろしてからシートベルトを着用し、窓ごしからコンクリートの地面だとか飛行機の翼だとかタラップ車だとかをぼんやりと眺める。あとは離陸するのを待つだけだ。そういう非日常的な体験は旅行だからこそ味わえるわけで(あくまで僕の場合は)そのときのわくわくした感情がこの音楽を聴くだけでこうもありありと蘇ってくるなんて自分でもびっくりだ。僕はてっきり機内へワープでもした感覚におちいった。しかもちょうど直線道路を走ってたもんだから、飛行機が離陸するまえに発動するあのエンジン全開音の唸りのごとくフルスロットルで車を走らせたらそのまま空へふわりと飛びたってゆけるのではないかと期待したのだ。もちろんそのような空想はなにひとつ実現することなく僕をふたたび現実世界へ引きもどしてしまうわけだけど、それでもヴァイオリンに耳をかたむけていると旅行中のあの期待に充ちた幸福な気持ちが湧いてきて夢かうつつか判断つかなくなってくる。いや運転中だからさすがにそれは言いすぎか……。いずれにせよ早く飛行機にのってどこか遠くへ行きたいなと思う。最後に搭乗したのは今年の8月だったからもう4カ月も経ったのか。とりあえず今年もあと残り10日くらいだしラストスパートをかけてなんとか乗りきりたい。ところでAnother Skyは直訳すると「もうひとつの空」なんだけど、日本におけるアナザースカイは「第二のふるさと」を意味するらしい。そう考えると『Another Sky』を自社のイメージソングに採用したANAはセンスがいいなあと思えてくる。歌舞伎で構成された機内安全ビデオとかも面白くてすごく好きだ。